ブリの適水温は何℃?調査・研究報告を調べてみた【行動パターン】

ブリの適水温 調査 泳がせ・飲ませ釣り
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さまざまな資料から見る「ブリの適水温」

適水温は魚種ごとに異なります。 ブリの適水温 に関しては様々な報告があります。まずはそれを見てみましょう。

国立国会図書館のHPには、「魚が生きやすい水温のデータについて日本近海で獲れるような魚の生きやすい水温(適温)が分るようなデータがあるか。」として様々な資料がまとめられています。

なかでも特に便利な資料の一つが「海生生物の温度影響に関する文献調査」下茂繁, 秋本泰, 高浜洋/著『海生研研究報告』2000年 第2号p.1-351.です。ここには、様々な魚の適水温の資料がまとめられています。

同報告では、ブリの成魚期の適水温について、次の5件の報告が挙げられています。

最適水温域適水温域生存水温特記事項文献
13.5~21℃12~29℃9~30℃出現水温日本水産資源
保護協会(1983)
13~18℃出現水温日本水産資源
保護協会(1981)
7~31℃生存限界水温:2才以上日本水産資源
保護協会(1980)
14~16℃12.5~23℃漁獲水温:千葉以南太平洋日本水産資源
保護協会(1981)
18~28℃生息域(実験上)の
標準(好適)値
全国沿岸漁業
振興開発協会(1993)
ブリの適水温
海生生物の温度影響に関する文献調査」下茂繁, 秋本泰, 高浜洋/著『海生研研究報告』2000年 第2号p.1-351. から一部抜粋

最適水温について言及があるのは2つの報告で、それぞれ13.5~21℃、14~16℃でした

図に示してみます。

ブリの適水温 に関する報告
一行が一つの資料に対応します。上から日本水産資源保護協会1983,同1981,同1980,同1981,全国沿岸漁業振興開発協会1993

縦軸が各資料に対応します。横軸が水温です。黄色矢印が適水温で、矢印内赤色部分が最適水温です。なんとなく傾向はありますが、資料ごとに水温がばらついています。指標も漁獲水温であったり、出現水温であったりとか様々です。

ざっと見れば、ブリの最適水温は14~16℃ですし、全ての調査で重なっている適水温は18℃です。

とりあえずこの数値を頭に入れておけばまず問題ないでしょう。

なお、魚の行動習性を利用する 釣り入門 科学が明らかにした「水面下の生態のすべて」、pp.184-185では、摂食ピークは15℃で成長適水温は18~27となってます。

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なぜこのようなばらつきがあるのか、以下で、更に調査していますが、ややこしい話が多いので時間のあるときにおすすめします。

「成長段階別」ブリの適水温

魚の適水温は魚種別に異なりますが、さらに、成長段階で異なる場合があります(異ならない種もいます)。

以下はブリの飼育時の適水温です。

適水温域特記事項資料
20~29℃0才魚日本水産資源保護協会(1980)
温水養魚開発協会(1990)
20~29℃1年魚日本水産資源保護協会(1981)
日本水産資源保護協会(1983)
15~20℃1~3才魚日本水産資源保護協会(1980)
温水養魚開発協会(1990)
15~20℃2~4年魚日本水産資源保護協会(1981)
日本水産資源保護協会(1983)
飼育時のブリの適水温 
海生生物の温度影響に関する文献調査」下茂繁, 秋本泰, 高浜洋/著『海生研研究報告』2000年 第2号p.1-351. から一部抜粋

飼育下におけるブリの適水温は、小さいうちは20~29℃、大きくなれば15~20℃です。ブリはその成長にしたがって徐々に適水温が下がっていく種であることがわかります。

なお、ブリの成長段階と一般的呼称との対応関係は以下の通りです。

年数全長尾叉長代表的呼称
1才約44センチ約40センチイナダ、ハマチ、フクラギ、ヤズ
2才約66センチ約60センチワラサ、メジロ、ガンド、マルゴ
3才約81センチ約74センチブリ
4才約88センチ約80センチブリ
山口県日本海沿岸域で漁獲されるブリ(Seriola
quinqueradiata)の年齢,成長および成熟
補足
補足

出世魚のサイズは「尾叉長」なのか「全長」なのか「体長」なのかよくわからないですね。出世魚の名称区分もあいまいなので、特別に定義されていないようです。ここでは、今回引用した文献に多く用いられる「尾叉長」と釣り人の測り方で多いであろう「全長」を併記しました(変換式は「尾叉長=0.91×全長+0.67」三谷1960)。

3~4年目にブリと呼ばれるサイズに到達する個体が増えますが、飼育下ではそのブリクラスの適水温は15℃~20℃です。

かなり大雑把ですが、ブリの大きさと最適水温の関係をプロットしてみました。

成長段階とブリの最適水温(目安)

適水温が下がっていく感じがわかりやすいかと思います。

補足
補足

かなり適当ですが、縦軸は最適水温、横軸は魚のサイズ(尾叉長)を想定しています。

以下の点をふまえた推測値となります。

・飼育時2才60センチ未満で29℃~20℃を選好する

・飼育時2才60センチ以上で20℃~15℃を選好する。

・14℃以下は適水温ではない可能性がある(※1)

・体長18.9センチで約27℃の温度を選好すること(※2)

・尾叉長80センチで17℃の温度を選好すること(※3)

(※1)飼育下では「14℃以下ではほとんど成長しない」という報告がありました。成長適温が最終選好水温と同一だという報告もありますJobling(1981)ので、14℃以下はブリの適温ではないことを示唆します。

(※2)実験的には平均体長18.9cmのブリ(未成魚)が26.9度を最終的に選好したデータもあります(沿岸性魚類の温度選好に関する実験的研究 土田修二 海生研研報,第 4号, 11-66, 2002)

(※3)前掲の調査報告から成魚の適水温は14℃~16℃や18℃が示唆されています。

確かに、実釣でも30センチ弱のツバスクラスが大量に釣れるときは高水温のときが多いですし、ブリクラスが釣れるときは低水温のときが多いですね。

タグを付けてわかった「季節ごとのブリの遊泳水温」

これまで飼育時のデータからブリが成長にともなって低水温を好むようになることを示してきました。自然環境の様子を調べてみます。

ブリ資源有効利用に向けた回遊履歴の解明という調査では、ブリの回遊状況を解明すべく、高知県で採捕された80センチ前後の個体にタグ付けして行動調査したデータを報告しています。その結果、季節ごとにブリが生活する水温や水深があることがわかってきました。

同報告では、ブリの行動パターンから足摺岬付近にとどまる「根付き群」と、遠州灘や房総半島まで移動する「回遊群」にブリの個体データを分類しました。そうすることで回遊パターンごとに生活する水深や水温が季節ごとに変化することが浮き上がってきたのです。遊泳水温についてまとめたのが下表です。

年 月根付き群 
遊泳水温  (最頻)
回遊群
遊泳水温  (最頻
H19年 3月17~20℃(17℃)17~20℃(17℃)
H19年 4月16~20℃(18℃)17~20℃(19℃)
H19年 5月16~20℃(19℃)16~20℃(18℃)
H19年 6月18~22℃(20℃)17~21℃(21℃)
H19年 7月19~23℃(22℃)16~21℃(16℃)
H19年 8月17~22℃(18℃)14~19℃(17℃)
H19年 9月18~22℃(20℃)16~21℃(20℃)
H19年 10月18~22℃(20℃)19~21℃(20℃)
H19年 11月18~22℃(19℃)19~21℃(20℃)
H19年 12月18~21℃(19℃)15~19℃(15℃)
H20年 1月17~19℃(19℃)14~15℃(14℃)
H20年 2月16~18℃(17℃)14~15℃(14℃)
H20年 3月16~17℃(17℃)データなし
ブリの体外水温の変化 ブリ資源有効利用に向けた回遊履歴の解明 から作成。
水温は10%以上の時間とどまった水温帯、最頻は最も滞在が長い水温を示す。

視覚的に理解するために図にしてみます。

 ブリの適水温 センシングデータから得られた季節ごとのパターン
ブリの回遊データから得られた季節ごとの生息水温帯 回遊群と根付き群。

若干ややこしい図になってしまいました。縦軸が月、横軸が水温です。オレンジが「根付き群」が10%以上滞在した遊泳水温で、ブルーが「回遊群」10%以上滞在した遊泳水温です。三角マークは各グループが最も多く滞在した温度です。

たとえば、3月の場合、「根付き群」も「回遊群」も17℃~20℃を遊泳し、中でも滞在は17℃が最も多いことを示します(範囲が17℃~21℃に見えますが、図にする都合上こうなりました)。

大雑把に眺めると、「根付き群」も「回遊群」も似たような傾向を示しています。水温12℃以下、24℃以上にはほとんど分布せず、飼育時のブリが15℃~20℃という水温域を好むという情報も自然界でもかなり当てはまることがわかります。注目すべきは、回遊群は夏と冬により低水温域に分布しやすいことです。

次に、三角マークの最頻温度を追っていくと、面白い傾向が見えてきます。

ブリの季節ごとの行動
  • 春、3月から水温が上昇するにつれてブリの遊泳水温も上昇していきます。
  • 夏、7月や8月になると、一度ガクンと遊泳水温が下がります。魚も避暑をするのでしょう。
  • 秋、9月から11月までは20℃前後に滞在します。
  • 冬、水温の低下に伴って遊泳水温も下がっていきます。

「根付き群」も「回遊群」も温度の違いはありますが、この傾向は同じです。

タグを付けてわかった「季節別のブリの遊泳水深」

では、「根付き群」のデータと「回遊群」のデータのどちらを使えばいいのでしょうか。水深のデータを見てみましょう。先に結論を言えば、岸釣りであれば、ほぼ「回遊群」のデータを使えばいいということがわかります。

年月根付き群
遊泳水深
回遊群
遊泳水深
2007/30~40m0~40m
4100~120m100~120m
540~50,90~120m10~40m
610~40m0~40m
710~40m10~60m
890~120m20~70m
980~120m20~60m
1070~120m20~50m
1180~110m10~50m
1290~120m10~50m
2008/130~70m10~50m
220~60m20~50m
320~40m,50~60mデータなし
根付き群と回遊群の遊泳水深。水深は10%以上の滞在時間があった水深範囲。赤字は岸に寄る分布、赤太字はその傾向が更に強い時。

赤字が水深や分布形状から岸釣りからチャンスがありそうな月です。

参考までに、多少詳細を書きます。

  • 3月は、根付き群・回遊群ともに岸際への回遊が多く、岸からのチャンスが多いです。
  • 4月は、3月ほどではないですが、両群ともに岸からのチャンスはあります。
  • 5月は、根付き群は沖に出るためにチャンスは減りますが、回遊群のチャンスはあります。
  • 6月は、根付き群、回遊群ともに岸に寄るためにチャンスがかなり多いです。
  • 7月は、両群ともに岸寄りの回遊は続きますが、やや深場へ落ち、10メートルより深いところへアプローチできることがキーとなります。
  • 8月9月10月は、根付き群は沖へ出てしまい、ほぼチャンスはありません。また、回遊群は20メートルより深い場所へのアプローチが中心となります。
  • 11月12月1月は、回遊群が岸よりを回遊するためチャンスが増えます。根付き群は沖合にいます。
  • 2月は、根付き群と回遊群はともに20メートルより深場へアプローチできるかどうかがキーとなります。

キーポイントは

  • 春~初夏は根付き群も回遊群も浅場まで来る(繁殖行動?後述します)
  • 夏~初冬は根付き群は深場に落ち、岸から釣れるのは回遊群

です。

産卵期の接岸には地域差がある

注意したいのは、春~初夏にかけての接岸が一般的かどうかです。ブリの産卵期は一般に3月~5月とされます。しかし、地域差もあります。

ブリ天然魚の産卵期は九州南方の薩南海域で2~3月、四国と九州沖合海域で3月~4月、能登半島近隣海域では6~7月で、産卵の適水温は19℃とされています。ところが天然モジャコを漁獲し、九州や四国の沿岸の海面小割等で養成した親魚(以下養成親魚という)の場合、産卵期は海水温が19℃に達する4月下旬から5月上旬となり、天然魚の産卵期よりも約2ヶ月遅くなります。

より早く、より大きく、ブリを作る(浜田和久氏、五島栽培漁業センター)

前掲の調査データは四国で放流されたブリのデータです。実際の行動範囲から、だいたい四国沖、回遊群は伊豆半島や房総半島を含めた太平洋側の行動とみてよいと思います。放流されたブリの産卵期が3月~4月だとすると、記録された春の接岸行動は、繁殖行動の一環の可能性があります。

ブリの産卵場所については諸説あり、よくわかっていないようですが、1)200メートルの大陸棚で産卵するという話と、2)浅場に来る産卵群と深場の非産卵群で遊泳水深が二極化するという話があります(日本の旬・魚のお話)。前記報告のデータを見ると、4月~6月にかけて遊泳水深の分布が二極化していますから、この接岸を産卵行動だと捉えることができます。

このように考えると、岸釣りの場合、回遊群のデータを主に参考にしてよいものの、春~初夏の接岸はだいたい九州、四国、伊豆半島、房総半島までの太平洋側の行動のデータとして捉える必要があります。

根付き群と回遊群の行動から推測できること

ところで、根付き群と回遊群とでなぜこのような行動の違いが出るのでしょうか。一つの可能性は、エサの狩り方の違いです。根付き群は待ち伏せタイプでエサがやってくるルートに陣取り、エサの回遊を待ち受けるタイプ。回遊群は追い回しタイプで、積極的にエサの群れについていって追い回すタイプなのではないでしょうか。

根付き群は自分の快適な環境を重視するタイプだとすると、16~22℃がブリにとって心地よい水温なのだろう、と推察できます。対して回遊群の行動パターンからは、ブリがエサのために無理できる水温が14℃くらいまでということが推察できます。

漁獲時の知見

適水温に関する傍証はほかにもあります。同資料で指摘されいるの漁獲時のデータ・証言を紹介します。

  • ブリの定置網漁は3月~5月にされる(※)が、この漁期の体外水温は16~17℃が多かった
  • 漁業者の経験則では「水温 16℃の潮がくるとブリがとれる
  • ブリ銘柄の漁獲尾数は水温約 17℃の時に多かった。メジロ銘柄は椎名で水温約 19℃、伊佐では約 18℃の時に多かった

(※)この時期に根付き群も回遊群も50メートルより浅場にブリが上がることを活用するため。

このように複数の資料を通してみると、自然環境のブリの適水温は季節にもよるけれど、大雑把にいえば適水温は16~20℃で、最適は16~17℃を中心とすると考えておくと大きな外しはなさそうです。

まとめ

まとめましょう。

  • ブリは成長すると適水温が下がっていく。
  • 根付きタイプか回遊タイプかによって季節ごとに遊泳水温や水深が異なる。
  • 岸釣りの場合、回遊タイプの行動を参考にすればよい。ただし、春~初夏の産卵シーズンには地域差がある可能性がある。
  • 季節差を度外視すれば、飼育環境のブリの適水温はだいたい15℃~20℃、自然環境のブリの適水温はだいたい16℃~20℃で、最適は16℃~17℃くらいだと思われる。
  • 水温14℃を下回るとその水域からは移動することが多くなる。

これらのことを意識することで、ブリの数釣りや大きなブリを狙うときの場所選びに役立つと思います。

最後に、蛇足ながら個人の釣果と照らし合わせてみます。大阪湾奥でオカッパリからメジロ~ブリまでもっともよく釣れたのは2022年では11月下旬~12月上旬でした(昼間の5~6時間釣行で平均6匹、ノマセ釣り)。このとき2km沖の観測ブイで計測された水温は表層底層まで16℃~19℃程度でした。平均にすると17.5℃。これまでの資料の結果とかなり合致します。また、ブリは水温が13℃くらいまで下がるとパタリと釣れなくなりました。13℃というのはブリ自体にとっても適水温ではなくなったり、また、エサのアジ等が活動限界水温に近づいたために移動をはじめ、ブリもそれに伴って移動するためでしょう。

ちなみに、ある釣果報告サイトの大阪のブリ釣果報告件数を月別に集計してみた結果が下図です。

・ブリクラスは産卵行動のためか5月6月にも釣れるが、高水温期の7月8月は一時的に釣れにくくなる。
・小型のツバスクラスのピークは6月。高水温期の夏でもそこそこ釣れる。
・ブリクラスのピークは11月で、メジロとハマチは10月がピーク。
・大型の個体が寒さに強いことがわかる。

研究報告に当てはまっているのがわかると思います。

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